あの日のこと

あうんのこと
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あれはそう、真夏の空に雪が振り、紅葉の帳に桜が舞い、氷精がコゲコゲに焼けた日。
幻想郷中の四季が乱れ、妖精達が暴れまわった、あの四季異変の日の事です。

異変のごたごたというか、神秘の気まぐれというか。
色々あって、あうんはこの身体を得ました。
そしてそのおかげで、身体の無い時からずっと見護り続けていた霊夢さんと目を合わせてお話をするという夢を叶える事ができたんです。

あうんはそれがあんまりにも嬉しくて、あふれ出る気持ちを霊夢さんに伝えようとしました。
でも、何だかちょっぴり恥ずかしくなって、思っている事と、思ってない事とがぐちゃぐちゃになって言葉になり、うまくお喋りができませんでした。

あうんがそんな様子だったので、霊夢さんはあうんの事を怪しく思って、そのまま弾幕ごっこで勝負する事になってしまったんです。

あうんにとって初めての弾幕ごっこでしたが、霊夢さんの活躍をずっとそばで見てきたので、戸惑ったりする事はありませんでした。むしろとても楽しかったぐらいです。

勝敗はもちろんあうんの完敗。
でもその戦いのおかげで、霊夢さんにあうんが怪しいモノじゃないと分かってもらえ、更にはあうんが神社のお留守番をする事まで許してもらえたんです。
誤解が解けて、あうんに向けられる目や表情がすーっと穏やかになっていくあの時の霊夢さんの顔は、今でも忘れられません。

森の方へ行くと言った霊夢さんを見送って、あうんはとてもわくわくしながら神社で待ちました。
だって、異変が起きてそれが解決すると、いつも必ず盛大な宴会が神社で執り行われるからです。
霊夢さんと初めてお話しして、霊夢さんと初めて弾幕ごっこをして、おまけに一緒に宴会ができるだなんて、狛犬人生でこんなに幸せな日は他にありません。

でも、今回はちょっと事情が違いました。
霊夢さんを見送ってしばらくして、幻想郷に満ちていた、異変特有の幻怪な空気が薄まりました。
異変の解決です。
そしてもう少し経ってから、霊夢さんも無事に神社へと戻ってきました。
異変を解決して意気揚々と帰ってくるはずの霊夢さんは、いつもと違ってどこか浮かない顔をしていました。
聞くと、異変自体は治まったものの相手に逃げられてしまい、異変の根源は解決できずじまいになってしまったんだそうです。

そんな歯切れの悪い状態では、霊夢さんも他の人も、宴会をする気分にはなれません。
おまけに霊夢さんも、とってもお疲れの様子で、さっさと食べてさっさと寝る。と言って、そそくさと神社の母屋に入っていってしまったんです。

境内にぽつんと残されたあうんの胸は、悲しい気持ちでいっぱいになりました。
お留守番の間、満開に咲いた神社の桜を眺めながら、その下でする宴会の様子をずっと想像しながら楽しみに待ってましたからね。

異変が去ったせいで普通の何倍も早く散り始めた桜の前で、あうんはじっと涙をこらえました。
落ちる桜の花が、あうんの代わりに泣いてくれているようで、とても頼もしく思えました。

ずっとそうやって、花がほとんど無くなってしまった頃、突然母屋から「こまいぬー!」という霊夢さんの声が聞こえました。

霊夢さんがあうんの事を呼んでくれた。初めて。
それは、さっきまでいっぱいだった悲しい気持ちを吹き飛ばすのに十分なほどに嬉しい事です。

あうんは嬉々として霊夢さんのいる部屋へと一直線。
部屋には、ラフな格好に着替えた霊夢さんと、小さなちゃぶ台の上に、ふたの乗ったどんぶりが二つ。
なんと、お留守番のお礼にと言って、霊夢さんがごはんを用意してくれていたんです。

なんてことでしょう!
嬉しくて飛び回るあうんに若干の苦笑いを向けつつ、霊夢さんはこんなもんだけど。と言いながらどんぶりのふたを外しました。
するとそこには、透き通ったべっこう色の汁に、くねくねとうねった細い麺、青いねぎに、半熟のたまごが。

あうんが初めてもらったもの。あうんが初めて口にした食べ物。それが霊夢さんの作ってくれた、インスタントラーメンだったんです。
興奮を抑えながら、うまく使えないお箸を使ってすすった麺の味はとても優しく、温かかったです。
こんなに素晴らしいものをもらえるあうんは、きっと特別な存在なんだと思いました。

そしてその日から神社で一緒に暮らすようになり、今では霊夢さんにご飯を作るのはあうんのお仕事です。
霊夢さんに作ってあげるラーメンは、もちろんあの時のインスタントラーメン。
何故なら、霊夢さんもまた、特別な存在だからです。

コメント

  1. プリズム より:

    四季異変の時にこんなことがあったんだね
    ラーメンは魂の食事だってことを心で理解したぜ!